HIVとともに生きる中での「恋愛」と「親密さ」
HIVとともに生きる人にとって、「恋愛」や「セックス」、「親密さ」といったテーマは、とても繊細で、時に大きな不安を伴うものです。。
診断を受けた直後、多くの人がまず感じるのは、「これから自分は誰かと愛し合うことができるのだろうか」という戸惑いではないでしょうか。
それまで当たり前のように思い描いていた恋愛や将来像が揺らぎ、自分の身体や存在そのものに対する見方が変わってしまうこともあります。
立ちはだかる不安と社会の偏見
特に大きな壁となるのが、「伝えること」への不安です。
パートナーにHIVのことを打ち明けたとき、どう思われるのか、関係が壊れてしまうのではないかという恐れは、とても現実的なものです。
また、社会の中に残る偏見や誤解も、こうした不安を強めます。
「HIV=危険」「関わるのが怖い」といったイメージが根強く残っていることで、実際以上に自分を閉じ込めてしまうこともあります。
その結果、恋愛やセックスから距離を置き、「自分にはもう無理だ」と感じてしまう人も少なくありません。
医療の進歩が変えた「できること」
しかし、医療の進歩によって、こうした状況は確実に変わってきています。
現在では、抗HIV治療を継続し、血液中のウイルス量が検出されない状態(いわゆるU=U)を保つことで、性行為によって他者に感染させることはないと科学的に示されています。
これは、HIVとともに生きる人が、安心してパートナーとの関係を築くことができる大きな根拠となっています。
さらに、コンドームの使用や、HIVに感染していない側が予防的に薬を服用するPrEPなど、多様な予防手段も広がっています。
つまり、「HIVがあるから恋愛やセックスは危険である」という考え方は、もはや正確ではなくなっているのです。
「自分の気持ち」に目を向ける
それでもなお、頭では理解していても、気持ちが追いつかないことは自然なことです。
大切なのは、「どうあるべきか」ではなく、「自分がどうしたいか」に目を向けることです。
誰かと親密になりたいのか、どのような距離感が心地よいのか、どんな関係を築きたいのか――その答えは人それぞれであり、正解は一つではありません。
不安や迷いを抱えたままでもかまいませんし、無理に前に進もうとする必要もありません。
自分のペースで、自分の気持ちに正直に向き合うことが、結果的に安心できる関係につながっていきます。
パートナーとのコミュニケーションの力
また、パートナーとのコミュニケーションは、こうしたプロセスにおいて非常に重要です。
HIVについて話すことは勇気のいる行為ですが、正しい情報を共有し、お互いの不安や希望を言葉にすることで、関係はより深く、信頼に基づいたものになっていきます。
すべてを一度に伝える必要はなく、タイミングや伝え方も人それぞれです。
大切なのは、「一人で抱え込まないこと」と、「対話を通じて関係を築いていく姿勢」です。
親密さはセックスだけではない
さらに忘れてはならないのは、「親密さ(intimacy)」は必ずしもセックスだけを意味するものではないという点です。
手をつなぐ、ハグをする、同じ時間を共有する、安心して気持ちを話せる――そうした日常の触れ合いもまた、かけがえのない親密さの形です。
ときには、セックスよりもこうした関係の積み重ねが、心の安心や満足感につながることもあります。
親密さのあり方を広く捉えることで、「こうでなければならない」という思い込みから少し自由になることができます。
自分らしいつながりを取り戻すために
HIVとともに生きることは、確かにこれまでの人生に新たな視点をもたらします。
しかしそれは同時に、自分自身の価値観や望む関係を見つめ直す機会でもあります。
恋愛やセックスをあきらめる必要はなく、むしろ自分らしい形でそれらを再定義していくことができるのです。
不安や偏見が完全になくなることはないかもしれません。
それでも、正しい知識と支え合える関係、そして自分自身への理解を深めていくことで、人は再び誰かとつながり、愛し、愛されることができます。
おわりに
HIVがあるかどうかに関わらず、人は誰もが親密さを求める存在です。その気持ちを否定する必要はありません。
大切なのは、自分のペースで、自分にとって心地よい関係を築いていくこと。
その積み重ねの中で、「自分らしく誰かとつながる」という感覚は、きっと取り戻すことができるはずです。
notAlone Fukuokaからのコメント
「性と親密さを取り戻す」ということは、notAlone Fukuokaの交流会でも常に大きなテーマです。
セックスが感染の原因だということで、その後ろめたさや後悔から、また、人に移してしまうんじゃないかと不安感から、セックスに距離を置いてしまう陽性者が、交流会にもたくさんいます。
私自身もそうでした。感染が分かった瞬間から「自分は汚れてしまった。もう一生セックスどころか恋愛もできない!一生孤独だ!」と思いこんでしまっていました。
「陽性者であっても、セックスしてもいいんだ」と思うようになるまで、ほぼ2年かかってしまいましたが、きっかけは先輩陽性者からのアドバイスでした!
背中を押された形で勢いでハッテン場に行き、久しぶりのセックスで、窒息状態から息を吹き返したような気持ちになったことを思い出します。
ただ、パートナーや出会った相手へのカミングアウトは、伝えるべきか、伝えないでいくべきか、伝えるのならどのタイミングで…答えのない永遠のテーマです。
またみんなで交流会で話し合いましょう!
灰来人
- 掲載サイト名
- TheBody
- 記事タイトル
- Reclaiming Sex and Intimacy While Living With HIV
- 発表年月日
- 2026年3月18日
- 著者
- Tim Murphy(ブルックリンを拠点とするフリーランスのライター兼ジャーナリスト)